すなの中に消えたタンネさん。遠い記憶の中の物語のはなし。

くまらぼです。

小さい頃に読んだり聞いたりした物語で、妙に印象に残っている物語ってありませんか。

僕にもそうした妙に印象に残っている物語があって、ふとしたときに思い出すことがありました。

僕の記憶では、その物語は小学生のころの国語の教科書か、もしくは国語の問題集のようなもので読んだと思うのですが、タイトルも作者もずっと分からなかったのです。

僕の記憶のなかの物語

僕の記憶の中で、その物語はどんな物語だったかを書いてみます。

物語の舞台は近未来で、SFっぽい雰囲気。

どことなく、星新一のSFショートショートのような印象で、もしかしたら星新一の作品なのかなと思っていました。

 

物語では発明家が、とある機械を発明します。

パーマ機のようなその機械を人の頭にかぶせると、その人の抱えている悩みやストレスが砂に形を変えてサラサラとこぼれ落ちてくるのです。

悩みやストレスを砂として吐き出した人は、スッキリして帰っていきます。

その機械は評判を呼び、ひっきりなしに人々が押し寄せます。

そんなある日、発明家はふと、自らその機械をかぶってみます。

するとすごい勢いで砂があふれ出し、発明家はその砂に埋もれて死んでしまいます。

 

これが僕の記憶の中にあった物語です。

僕の記憶では、物語に出てくる発明家は孤高の科学者で、孤独に耐えかね、世の中に嫌気がさして自ら機械をかぶったという印象がありました。

また僕自身も、悩みやストレスを砂として吐き出すことのできるこんな機械があればかぶってみたいなと思っていたような気がします。



物語の正体が判明

先日、同い年の妻にこの物語を知っているかと聞いてみたところ、知らないという返事。

妻に物語の内容を説明しても分からないということだったのですが、説明しながら、ネットで検索してみたら物語の正体が分かるかもしれないということに気が付きました。

「砂 発明家 教科書」など思いつくキーワードで検索してみたらすぐにヒット。さすがインターネットの時代です。

判明した物語の正体は、乙骨淑子さんの『すなの中に消えたタンネさん』という作品でした。

『すなの中に消えたタンネさん』は、『読んでおきたい4年生の読みもの』という本に収められているということが分かりましたので、さっそく読んでみることにしました。

読んでみたら記憶の内容とはずいぶん印象が違った

子どものころ『すなの中に消えたタンネさん』を読んだのは、たぶん小学校4~5年生のころだったと思うので、二十数年ぶりの再会です。

あらためて読んでみると、大まかなストーリーはだいたい一致していましたが、いろいろな点で記憶とずいぶん印象が違うことに驚きました。

舞台は下町?

まず物語は近未来のSF的な世界ではなく、どことなく下町っぽい雰囲気の世界が舞台になっています。

また、物語の語り手が子どもたちだという点にもビックリ。

電気屋のオヤジのタンネさん

発明家は孤高の科学者ではなく、下町の電気屋のオヤジといった感じの人物です。

子どもたちからは「タンネさん」と呼ばれているのですが、これはタンネさんがいつも「たんねえ、たんねえ(足りないということ)」とぼやいているからです。

ラストも記憶とは全然違った

物語のラストも、記憶とは違いました。

タンネさんが作った機械(パーマ機ではなく、空色の洗濯機でした)は大変な評判を呼びます。

すると、町長さんがタンネさんに機械の小型化と量産を命じ、タンネさんは見張りをつけられ軟禁状態に置かれます。

働き詰めでどんどん衰弱していくタンネさん。

そんな状態に嫌気がさしたタンネさんが機械をかぶると、どんどん砂があふれてきて体が砂に埋もれてしまいます。

子どもたちがタンネさんを砂から救い出すのですが、そのときには機械は外れなくなっていて、タンネさんは心を失ったロボットになってしまっていたのでした。

 

これが『すなの中に消えたタンネさん』のストーリーです。

記憶ではタンネさんは砂に埋もれて死んでしまったのですが、実際の物語では心を失くしたロボットになってしまったのでした。

どちらにしてもインパクトが大きくて考えさせられるラストです。

 



「すなの中に消えたタンネさん」を読める本

『すなの中に消えたタンネさん』は、『読んでおきたい4年生の読みもの』という本に収められています。

この本によると、『すなの中に消えたタンネさん』は昭和52年に学校図書から発行された小学校4年生の国語の教科書に掲載された作品のようです。

昭和58年生まれの僕がその教科書を使っていたわけがないので、やっぱり国語の問題集か何かで読んだのかな。

また、作者の乙骨淑子さんの『ピラミッド帽子よ、さようなら』という作品は、新海誠監督が『星を追う子ども』の着想を得た作品として挙げています。

『すなの中に消えたタンネさん』もそうですが、乙骨淑子さんの作品はどことなく不思議でシュールな物語で、多くの人にインパクトを与えているんですね。

 

20年越しに懐かしの作品と出会えたことは嬉しかったですし、自分の記憶の中で独自の物語を創り出していたことを発見できたのも面白かったです。

以上、懐かしの物語『すなの中に消えたタンネさん』と再会した話でした。